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2009年11月30日 (月)

イップス

 土曜日の午後にテニス関連の講習会に行ってきました。テーマがイップスだったのでこれは行かねばと思い、診療後にやや遅刻して参加しました。
 イップスというのは、スポーツ選手や音楽家などがそれまでできていた動作ができなくなる現象です。日本語では適切な言葉がまだありませんのでうまく説明しづらいのですが、医学部で習うときは「書痙」という病名で習っています。おはしを使うとか日常生活動作は全て普通にできるのに、字を書くときにだけ何故か手をうまく動かすことができなくなる方がいます。先天性の疾患などのために最初から字が書けない訳ではなく、ある時まではできていたのにいつからかできなくなるというのが特徴です。
 手の外科外来では、音楽家の方がイップスと思われる症状で来院されることが多いと思います。ギターを弾こうとすると指が硬直したり変な動きをして思うように弾けないというような症状です。
 スポーツの世界では、ゴルフでうまく打てなくなったということが一番多いと言われています。その他には野球とかテニスで多い疾患です。
 実は私も今から思い返すと大学時代にイップスという状態になりました。今回講習会に参加して実は私の症状はかなり重症だったのだなと思いました。私の症状は、あるときからフォアハンドストロークが全くできなくなりました。普通に水平方向へラケットを振ろうとしているのに何故かラケットが垂直に動き、頭の後ろと通過してしまいます。時にはフォアハンドをしているのに後頭部をラケットで打ってしまうこともありました。そのうちにサービスでもボールにラケットを当てることが困難になりました。そのときの悲しいやら情けないやらという思いは忘れられません。最後にはほとんど全てバックハンドに回り込んで試合をするしかなくなりました。私の場合は結局テニス部を引退してテニスから完全に離れることにしました。そのまま卒業し医師として忙しく働いているうちに、頭が切り替えられたようです。今はたまにテニスをする機会がありますが、まだ少しフォアハンドはぎこちなくイップスを発症する前のようにスムーズには打てませんが、あの悲惨な空振りはしないまでにはなりました。
 医学的にはイップスは局所性ジストニアに分類されるそうです。しかし自分の経験からはジストニアとは少し違うのではないかと思います。
 イップスの最大の問題は、それをきちんと理解している選手や音楽家、そのコーチや指導者、医療関係者が極めて少ないということだと思います。うまくできないのは練習方法やメンタルが弱いからということではなく、やはり中枢性に制御がうまくいっていないからだと思います。私は個人的にはイップスは自分の中に精神と身体があり、いくら精神がその競技や音楽をするように働きかけても身体がそれを行うことを拒否して反乱してしまっている状態なのではないかと思います。イップスの症状が出ているときは右上肢が自分のものではないように感じます。全く自分の意識ではコントロールできないのです。
 イップスへの対応は、きちんとその状態を把握すること。あまり悲観する必要はないと思います。それがイップスであると分かれば、軽症なら少し練習を休むとかペースを落とすとか、イップスが出る動作を使用しないで対処できないか考えてみるとか工夫してみるとよいかもしれません。一人で悩むのがつらかったら経験のある専門医や知識の深い臨床心理士などに相談するとよいと思います。
 安定剤や抗うつ剤などの薬剤を使用することもあるようです。気分的な落ち込みがあるようでしたら
専門医に相談してみるとよいかと思います。局所性ジストニアなどではボトックス注射が有効なこともあるようです。
 我ながら結構病気持ちだなと改めて思いますが、まあ医師としてよい経験をさせてもらったと前向きに考えたいところです。イップスは本人的にはかなりつらい状態だと思います。私もこれを機会に深く勉強してみたいと思いました。

2009年11月25日 (水)

10mlワクチン

 本日無事新型インフルエンザ予防接種を行いました。10ml瓶でワクチンが入荷したため、今日に予約を集中させていただきました。予約していた方で昨日から熱発したため今日はできなかった方もいました。
結果若干ワクチンが余ってしまいました。明日の朝、かかりつけの方でご希望の方に無駄無く使わせていただこうと思います。やはり10ml瓶のワクチンは診療所レベルでは使い勝手が悪すぎます。
 次回の新型インフルエンザ予防接種は、まだいつワクチンが入るかわかりませんので申し訳ありませんが予約はできません。12月初めくらいになるのではないかとうわさされています。こまめにホームページをチェックしてください。
 

2009年11月22日 (日)

縦割りの弊害

 事業が縦割りになっていると横のつながりがうまく機能せず、非効率な状態になってしまうことが多々あります。また、同じようなことをそれぞれの部署ですることになり手間やコストが増えるという弊害も生じます。現在様々な分野で縦割りの弊害をなくそうと努力され制度改革も進められています。
 こう書くと、霞ヶ関の話かと思う方が多いのではないかと思います。これほど縦割りの弊害が叫ばれている中、どんどん縦割りが進められている分野があります。それは他ならぬ医療の世界です。医薬分業となり薬は医療機関から切り離されました。介護制度ができ、訪問看護や介護系サービスも分離されました。検診も切り離され、メタボリック症候群の指導も検診業者へ切り離されました。リハビリテーションも高齢者は介護保険で行うようになってきています。
 介護を受けている高齢者も、体調を崩したり怪我をすることが少なくありません。現在は医療と介護が分離されているためそのつど医療機関へ通院や入院し、医療機関と介護施設を行ったり来たりすることとなってしまいます。医療機関自体でも急性期と慢性期が分離されたために、救急病院と療養型病院とで次々と転院させられたという話もよく聞きます。主治医意見書というのを数多く書いていますが、介護調査員による調査票やケアプランを直接見ることはできません。顔を合わせることができれば短時間で患者さんの状態等引き継ぎできるのに、現状では情報を雰囲気まで含めて詳細に共有することなどほとんど不可能となっています。その分を指示書や報告書でやりとりする訳ですが、数ヶ月に1回文面でやりとりする無味乾燥な状態だけでよいのでしょうか。介護予防運動など介護系リハも診断なく運動をしている訳で、骨粗鬆症や持病のある方にそこまでして大丈夫なのかハラハラすることもあります。
 医療での訪問看護と介護での訪問看護、医療でのリハと介護でのリハ、院内処方と院外処方。療養型医療機関と医療付き介護施設。もちろん様々なメリットもあるのでしょう。しかし本当にこのまま縦割りバラバラ化していくことが国民のためによいことなのでしょうか。
 せめて、たまにはいろいろな業界の人と顔を合わせる会ができないものかと思います。医療、薬局、介護、福祉系の方々とも。

2009年11月20日 (金)

喘息

 この10年間での各種疾患による死亡率の推移を見ると、癌による死亡率などは増加しています。一方順調に死亡率が低下している疾患もあります。
 喘息による死亡率は世界的に徐々に減少してます。昔は救急外来で当直をしていると喘息発作の方が数多く受診されて、重症だと緊張して対応したものですが最近はどうなのでしょうか。まだまだ救急を受診する方も少なくないのだとは思いますが統計上は重症化も徐々に減少しているようです。
 整形外科医のブログでなぜ喘息かというと、私自身が小児喘息から治癒しないで今だに発作を起こしている喘息患者なので情報を収集しているからなのですが、喘息のコントロールとしては発作を起こさないようにするのが目標なので私のコントロールは今ひとつに分類されます。
 喘息死が減少した最大の理由は、喘息が単なるアレルギーではなく慢性炎症性の疾患と理解され、吸入ステロイドが積極的に導入されたことにあります。昔は漢方を煎じたりインタールという抗アレルギー剤を吸入したりしたものですが、子供ながらにこの治療は効果が期待できないなと思ったものです。今はなき鶴川病院にも入院したことがありますが、あの頃とは比べものにならないくらい治療方法は進化しています。
 私のように軽症持続型から中等症くらいまではまじめに吸入ステロイドを使用することが大事です。これが本当に難しいことで、高血圧や骨粗鬆症でもきちんと薬を継続できる方には本当に頭が下がります。最近は気管支拡張剤との一緒になった吸入薬なども開発され良好なコントロールが期待できます。それでも重篤な発作を起こす方には免疫学的は製剤も使用されるようになりました。
 大切なのは、減ってはいると言っても喘息で亡くなる方が存在するということを十分に理解しておくことです。気管支拡張剤の吸入も頻回に使用すると効果が減弱したりします。また、タバコの煙などを吸い込むと喘息発作を起こすこともあります。なんとか喘息死だけはしないように日ごろのコントロールを頑張りましょう。
 整形外科的には重症の喘息の方でステロイドを内服されている方は骨粗鬆症の治療が必要です。閉塞性肺疾患なども含め慢性の肺疾患だけでも骨粗鬆症化することがあり、経過により骨密度や脊椎のレントゲンをチェックすることをお勧めします。

2009年11月16日 (月)

子供の肘痛

 私たちの年代より上では、肘が内側に曲がった変形が残っている方が時々います。機能的に著しい障害があることはないようですが、現在では極力生じないように努力されている肘の怪我の合併症です。
 小学生以下くらいの小さな子供の肘痛には、大きく分けて肘内障と骨折があります。手を引っ張ってから痛がるとか動かさなくなったという場合は、ほぼ確実に肘内障という疾患です。前腕にはトウ骨と尺骨という2本の骨がありますが、肘の部分では尺骨の外側にトウ骨という骨が輪状靭帯でヘッドロックのようにくくりつけられています。この輪状靭帯からトウ骨の頭部がはずれてしまったようになることを肘内障といいます。この場合は整復すればすぐに痛くなくなります。一部、整復されても痛みがしばらく残っていることがあり経過観察するか、短期間副木固定をすることもあります。
 転倒したとか、鉄棒等から転落した場合は骨折の可能性があります。上腕骨の骨折には、横に折れる顆上骨折、斜めに折れる外顆骨折などがあります。レントゲンでズレの程度などを評価します。大きくずれている場合は手術での固定が必要です。ズレが小さい場合はギプス固定にて治療します。外顆骨折の方が心配です。最初にほとんどズレがなくても経過中非常にずれやすく、後から手術が必要になることも少なくありません。最近では最初にわずかなズレでも積極的に手術的な固定が選択されるようになってきています。前腕側ではトウ骨頭や頚部での骨折、尺骨の肘頭骨折などがあります。トウ骨の骨折ではそれほど激痛ではなく受傷日に来院されない方もいます。
 小さな子供の肘の外傷では後遺障害の残ることがあり、ことさらに初期治療が重要です。中にはレントゲンで骨折線が見えなくても、後からずれてくることもあります。最近は超音波検査で関節内の血腫やヒビの有無も観察し、安全の為に最初はギプス固定をしていただくこともあります。超音波の利用もレントゲンと組み合わせないと十分ではありません。過剰な固定と思われることもあるかもしれませんが、後遺障害が残ってから最初に固定しておけば良かったと後悔しても遅いです。
 時に、こどもが痛がっていても腫れたりしていないと「本当に痛いの?」と子供のことを信じない親御さんもいます。小さい子供は正直なものです。よく話を聞いてあげないといけません。
 

2009年11月13日 (金)

整形外科と美容整形

 容疑者が美容整形の手術をして逃走中ということで大々的に報道されていました。警察も今後、逃走中の犯人の顔写真を整形外科の医療機関にも配布すると発表したそうです。
 せめて公的な機関や報道機関にはそろそろ整形外科と美容整形・形成外科との違いを認識していただきたいものです。顔の形を変えたり、脂肪吸引したりするのは形成外科医の先生で、美容整形とも言います。整形外科は怪我や脊椎・関節疾患を治療する科です。テレビで宣伝しているのは美容整形で、整形外科ではありません。ドバイに行って豪遊できる先生も美容整形の先生だけかと思います。ややこしいですね。
 整形外科というネーミング自体がよくないのかもしれません。いっそのこと骨関節科とか、運動器科とかに改名してほしい気がします。間違っても整形外科に手配写真を配布しないでもらいたいものです。

2009年11月 9日 (月)

予防接種に見る物事の決まり方

 新型インフルエンザの予防接種が始まりました。といってもまだまだワクチンが非常に少なく、誠に申し訳ありませんがご希望通りに接種することは不可能です。慌てずに情報収集をしてください。
 しかしこの予防接種の仕方には多々疑問がありますね。最初にスケジュールが発表されたときには驚きました。小中高校生がほとんど最後になっていてしかも輸入ワクチンという予定でした。つまり国の方針として未来ある子供達を後回しにした訳です。実際の現場で診療に当たっている人が立案段階に入っていれば爆発的に流行しているのが子供達であることは火を見るより明らかで、しかも重症化して亡くなったり後遺症が残ったりしているのも子供達が中心であり、まず子供達にしてあげようと思ったのではないでしょうか。
 現在、内科や小児科はインフルエンザの患者さんで大変混雑しています。診療がスムーズに行えなくなってきている問題も取りざたされています。インフルエンザ予防の最大の対策は罹患した方に接しないことです。インフルエンザの患者さんが多数いるところに、予防接種を受ける人を集めるということは客観的に考えてどうなのかと思います。なのになぜ医療機関で予防接種するのでしょうね。時間や空間で分けるように指導されていますが、それなら公民館や体育館で行った方がよいのではないでしょうか。
 何かいろいろな所で政治的な決定回路が働いているような気がしてなりません。
 いずれにしろ、早く希望者全員にワクチンが行える体制になってほしいものです。当院でもワクチン接種予定はホームページにて発表いたします。診療中の電話でのお問い合わせは受付業務に支障を来しますのでご遠慮ください。

2009年11月 2日 (月)

リウマチ性多発筋痛症

 肩こりというと、一般的には首の後ろから肩甲骨の周辺の痛みやこわばりのことを指すことが多いと思います。つまり肩関節痛と肩こりとは全く別の症状です。この部分の疼痛としては頚椎からひびく痛みであることが一番多いと思います。我々整形外科医は、まず頚椎の疾患から考えていくのは普通です。
 時に内服や外用剤、物理療法やブロックなどいろいろな治療法を行っても改善の乏しい方がいます。整形外科医としてはそんな時、椎間板ヘルニアから頚椎の転移性腫瘍など、整形外科領域で頻度の少ない疾患を探す方向へ思考回路が進んでしまいがちです。しかし、少し冷静になってまったく他の方向へ考えを転換する必要がある場合もあります。
 その典型例がリウマチ性多発筋痛症という疾患です。この疾患は頑固な肩こりという感じの症状で、後頚部から広いと両肩くらいまでが重く痛い状態が漫然と続きます。普通の鎮痛剤の効き目が悪く、リハビリをしても今ひとつ患者さんの満足度が低いです。
 頚椎レントゲンやMRIでは診断できません。肩こりで採血というのも変な感じがしますが、血液検査が必要です。採血すると、CRPや血沈という炎症反応が上昇しています。炎症反応が上昇する他の疾患の可能性を除外するとリウマチ性多発筋痛症という診断が確定します。
 治療としてはステロイドの内服が著効します。最初やや多めに内服するのですが、そうするとそれまで治療しても効果が乏しかった方が数日ですっきりしたりします。その後長期的に徐々に薬を減量していきます。一部関節リウマチに移行する方などもいますので注意が必要です。
 ひとつの症状も多角的に診察し、診断に悩むときは他科の先生の意見も聞いてみるなど、柔軟に対応してなるべく早く適切な診断に到達する努力が必要なことを教えてくれる疾患でもあります。初診時にピンとくると一番よいのですがね。

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