絶対に手術をしないという選択 腰椎編
「腰椎の手術は絶対にしない方がよい」と家族や知り合いに言われたという方は少なくありません。膝関節については先日書きましたが、腰椎については膝より話が複雑だと思います。
腰椎に関しては、「腰痛という症状」と「腰椎疾患」については完全に別にして考えなければいけません。
腰痛に関しては、腰痛のみであれば基本的には絶対に手術をしないと決めているのであれば無理にしないでもよいのではないかと思います。腰痛のみで手術をしないと厳しい疾患は、重度のすべり症や高度の側弯症の方など変形が強い方が多いと思います。腰痛が激しくても、機能障害や感覚障害などの神経障害がなければ、少なくてもトイレに行くなどの必要最小限の動作はできることが多いです。痛みに関しては最近は麻薬系の鎮痛剤まで使えるようになっており、緩和できることも多くなってきました。あとはその痛みをご本人が受け入れられるか、耐えられるレベルかということかと思います。
一方、腰椎に関しては絶対に手術を避けられるとは口が裂けても言えません。それは人の尊厳を侵されることもあるからです。例えば昔病院にいる時、ある20歳代の男性がぎっくり腰で来院されました。本人の訴えは最初腰痛のみでした。レントゲンを行って再度診察室に帰ってきた時、「おしっこを漏らしてしまいました。おしっこの感覚がわかりません。」となったことがありました。膀胱直腸障害という機能障害を伴うと、急性発症の場合緊急で手術的に除圧をしないとそのまま後遺障害として残ってしまうことがあります。その方は腰椎椎間板ヘルニアでしたが、緊急手術をして完全に回復しました。20歳代からおむつで過ごすということが耐えられるだろうか?この場合、普通の人だとやはり手術を選択するでしょう。
腰椎疾患で整形外科医が注意しているのは痛みももちろんですが、むしろ機能障害や神経障害の有無です。このままだと歩けなくなるなとか、このままだと後遺障害が残り苦しむことになりそうかなとかを考えます。ひとつ注意すべきことは、手術を後回しにして後手後手になってしまうと後遺障害が残りやすくなることです。手術をお勧めしても我慢して我慢して、耐えられなくなってから手術をしても痛みやしびれは早期に手術した場合に比べて残りやすいです。あまりに早期に手術するのもよくないかと思いますが、手術のタイミングというものも重要です。
手術をしないという選択をすることは最終的にはご本人の意志です。それは尊重されるべきかと思います。機能障害や手術のタイミングなどをよく考えて相談されるとよいのかなと思います。
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