なかなか治らない肩関節痛
五十肩や肩関節痛は病院に行っても治らないと言う方は少なくありません。確かに肩関節痛はすぐに治せない疾患が多いのですが、それには理由があります。最近、整形外科領域の超音波検査が一般的になってきて、どうして治りにくいのかがだいぶはっきり分かるようになってきました。 一般的に肩関節が痛いとほとんど五十肩として片付けられてしまうこともありますが、厳密な意味での五十肩はあまり多くありません。五十肩というのは他の様々な疾患を除外して残る病名で、以前は他の疾患を早期に発見できなかったので「肩が痛い」=「五十肩」という風になってしまったのですが他の疾患も早期に発見できるようになった現在ではそれ以外の診断を下せるようになってきたのです。
治らない肩関節痛として多い疾患の一つは腱板損傷です。中年以降、明らかな外傷がなくても肩を挙上する動作を行う腱板という筋が擦り切れてくることが少なくありません。腱板損傷を伴って肩に痛みを生じていると、なかなか痛みが治まらないことが多いです。根治的には手術的に修復するかどうかですが、手術適応範囲は現状それ程広くありません。手術成績はかなり良好なのですが、術後のリハビリなどはけっこう大変なこともあり、年齢や活動性等を考慮して検討するとよいと思います。それ以外ではやはりリハビリテーションが中心となり、場合により注射等も行います。
石灰沈着性の腱板炎も比較的多いですが、急性発症する場合は痛風のように痛くて診断は容易です。その後、結晶が骨のような塊になって残ってしまうことがあります。この場合も肩関節痛がなかなか治りません。小さい骨片ですと肩の動かし方によって疼痛を生じるインピンジメント症候群の原因になることも多いです。レントゲンでは判別しにくい部位に小さな結晶がある場合、超音波検査で特定できます。
SLAP lesionの損傷などの関節障害もなかなか痛みや機能障害が治らない原因になります。この場合はレントゲンでも超音波でも診断困難で、臨床所見とMRI検査等で診断します。若いうちやスポーツ選手等では関節鏡での手術が最も根治的かと思います。
時に、肩関節から発症する関節リウマチやリウマチ性多発筋痛症、脊椎関節炎といった炎症性疾患もあります。肩関節に水が溜まっていたり滑膜が増殖していたりする場合血液検査等が必要になることがあります。肩関節が治らない場合、漫然とリハビリをしていて炎症が持続していると骨関節が壊れていってしまうこともあり、逆に炎症性疾患と診断してお薬を使うとスムーズに疼痛が取れることもありますので考慮が必要です。
その他には、変形性肩関節症も意外と少なくありません。多くの場合、腱板損傷後の年齢的変化等ですがこれは基本的には治りません。肩関節の人工関節も徐々に行われるようになってきており、年齢等によっては手術でよくなる可能性はあります。
徐々に増悪する場合などには、一応癌の骨転移も除外診断が必要です。
肩関節痛をいっしょくたにして「この方法ですぐ治る。」と宣伝するものがよくありますが、肩関節痛というのは症状名であって病名ではないので、肩関節痛全てに効果のある治療というのは全部怪しげです。テレビが見られなくなったらとりあえず角を叩けば治るというのと同じレベルです。まあ治ればよいわけですが。なかなか治らなかったら原因をさらに詳細に追求してみるとよいと思います。ただ、原因がわかってもすぐに治らないことも多いのが肩関節のつらいところですが。
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