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2018年5月30日 (水)

HMGCR抗体関連筋症

 脊椎疾患の中で診断・治療ともに難渋する疾患の一つに「頚下がり症候群」があります。文字通り首が前屈してきて、前を見られない程になってしまい日常生活動作が著しく障害されます。
 原因としては、整形外科的には高度の変形性脊椎症や頚椎のすべり症、頚椎の圧迫骨折で前屈することもあります。しかし、高度の頚下がり症候群の方はどうも整形外科的には説明困難な場合が多いように思います。
 脊椎疾患以外には、パーキンソン病やALSなどの神経疾患の一症状として頚椎が高度に前屈してしまうこともあります。そこで神経内科へ精査をお願いすることも少なくありませんが、四肢や嚥下など他の領域に障害がないと大抵はっきりした診断は付きません。
 脊椎疾患でも神経疾患でもない原因として、薬剤性の頚下がり症候群の例も報告されています。その一つにコレステロールを下げる薬やDPP-4阻害薬という糖尿病の薬などによる副作用があります。コレステロールを下げる薬では横紋筋融解症という筋疾患が有名です。この疾患では筋肉痛を生じたり力が入らない、だるいなどの症状を生じ、悪化すると壊れた筋肉の成分のために腎臓が障害されることもあるため注意が必要です。
 コレステロールを下げる薬による筋障害として、この薬剤に対する免疫反応が筋肉にも反応してしまうようになり免疫的に筋障害を生じるという疾患もあります。これがHMGCR抗体関連筋症です。この疾患でも体幹に近い筋肉が障害されることが多く筋痛や歩行障害を生じることもありますが、時に頚下がり症候群として発症する場合もあるようです。
 コレステロールを下げる薬による筋痛は内服している方の5%程度に生じるようです。コレステロールを下げる薬やDPP-4阻害薬という糖尿病の薬を飲んでいる方はため息が出るほど多いので、当院に通院している方の肩こりや腰痛でも年間何人かは薬の副作用による疼痛のはずです。大変申し訳ありませんが、現状薬剤性の肩こりや腰痛はなかなか診断できていないのが現実です。というのは肩こりや腰痛の方に片っ端から採血してCKという項目を検査する訳にもいかず、肩こりや腰痛の方に内科の薬を一時休止してみてくださいとも言いづらく、なかなか診断に至ることが難しいためです(といったら言い訳かもしれません)。
 HMGCR抗体関連筋症の注意すべきところは、現在はコレステロールを下げる薬を内服していなくても過去に内服していれば発症する可能性があるという点と、さらにもし薬剤性であっても、薬剤を止めても軽快しない可能性もあり、ステロイドや免疫抑制剤をその後長期に使用しないといけないかもしれない点です。ただし、この疾患でコレステロール内服歴のある方は6割程度で内服歴のない方も4割程度いるとのことですので完全に薬剤のせいとも言えない訳ですが、コレステロールの薬を内服していて筋肉痛や肩こりや腰痛に悩んでいる方は、CKという項目を採血してみる必要があるかと思います。または一応薬を休止することも考慮した方がよいかもしれません。
 HMGCR抗体関連筋症は整形外科では多くの方が見逃されていると思います。それはやはり筋痛や筋疾患で採血することの敷居が高いのが一番の原因だと思います。画像的には障害されている筋肉がMRIで高輝度になるため、エコーで観察すれば分かるかもしれません。実際エコーで横紋筋融解症を見つけたこともあるので、最近は筋痛の方も積極的に観察するようにしています。
 診療の時には内服中の薬剤も、これまで飲んだ薬剤も、本当は全て把握できるようにすべきかと思います。お薬手帳は必ず持参していただけるようお願いいたします。生活習慣病の薬は特に害はないと思っている方が多いと思います。必ずしもそうとも言えないのですが赤信号もみんなで渡れば怖くない的にみんな飲んでいるので不安感は少ないですよね。
 

2018年5月26日 (土)

整形外科学会2018

 今週の木曜は整形外科学会総会に参加してきました。整形外科学会総会は明日まで行われていますので現在全国の整形外科医が学会に参加しており、外傷への対応が手薄になっています。運動会シーズン真っ只中で外傷への対応が必要なこの時期に総会をやっていることにはやや違和感を感じますが、まあ変わらないのでしょうね。
 脊髄損傷等に対するHAL(歩行アシスト装置)を用いたリハビリテーションの報告では、まだまだ試験段階だなという印象を受けました。しかし、リハビリ段階で積極的に使用できるようになったらリハビリも次のレベルへ行くことができるかもしれません。これから技術がさらに進歩してきたら、身体活動を補助するロボットやアシスト装置は発展していくと思います。現状動けないから閉じこもってしまう障害者や高齢者も将来的には積極的に活動できるようになるかもしれず大いに期待していますが、現状最も大きな課題はコストでしょうか。さすがに保険を用いて全員に供給することはできないでしょうから、電気自転車程度の費用で購入できるようになれば使う人も多くいるではないでしょうか。
 極細の関節鏡の開発という講演も面白かったです。以前からコンセプトはありましたが、実用段階にほぼ到達している印象でした。太い注射針を通すことができるので、外来で局所麻酔下に関節内を直接観察することが可能です。膝の半月板損傷や、手のTFCC損傷、肩の腱板損傷などの診断に有用かもしれません。腱鞘内注射や神経ブロックなども、流入している部位を直視して行うことができれば安全確実に行うことができるでしょう。今は撓む細い棒状ですが、自由に曲がるワイヤー状にできたり、切開とか剥離のできるデバイスを取り付けたりできるようになれば外来処置としていろいろできるかもしれません。これも今後に期待という印象です。
 医療機器展示に関しては診療所レベルではあまり目新しいものがありませんでした。展示会ではやはり人工関節や手術用のデバイスが大きな展示をしており診療所医師の見る領域は限られているのでやや寂しい感じがします。ストレッチ用のリハビリ機器はやや面白いなと思いましたが。高齢化社会で整形外科の手術もどんどん発展していますが、手術適応のない保存的症例や手術適応の厳しい超高齢者も増加している訳で、保存的治療も発展しないといけないなと思いました。
 学会は原則スーツでの参加なのですが、正直スーツはほとんど体が拒否するくらい嫌いです。そもそも機能的によろしくないと思います。せめてジャケットとチノパンでの参加で許容してもらいたいものです。

2018年5月13日 (日)

ハラスメントと言えば

 我々おやじは悪臭がするらしいですね。人間、年を取れば年を取っただけ貫禄のある匂いがするものです。それを嫌な顔をして消臭しないといけないようなCMを流すことは「体臭ハラスメント」ではないのでしょうか。
 人間年を取ると頭髪が減るものです。体質的に生まれつき無毛の方もいます。髪が薄いのがあたかもいけないことのような風潮を形成するのは、「薄毛ハラスメント」ではないのでしょうか。私はもう少しで薄毛になったらブルースウィルスのようにさっぱりしようと思います。
 人のコンプレックスを助長してビジネスにつなげるのはいかがなものかと思います。
 手に付いた常在菌を「ばい菌」として殺菌しないといけないような風潮を形成するのも、不安神経症を助長して除菌殺菌依存に陥らせるだけです。子供の頃はいじめでよく「ばい菌」という言葉が使われたものですが、人の手に菌がいることをいけないことのように言うのは「常在菌ハラスメント」ではないのでしょうか。人の身体には常在菌はいるものです。殺菌しようとして何の意味があるのでしょうか。

 翻って医療界ではどうでしょう。最近、「フレイル」という言葉をよく聞くと思います。フレイルというのは「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像 」とのことだそうです。  言いたいことは理解できます。なるべく健康寿命を延ばそうという努力も正しいと思います。しかし、人間必ず老いるものです。人が老いていくことを何かいけないことのように吹聴することも、「加齢ハラスメント」となるのではないでしょうか。診療所で長く診療していると、元気だった方も、食事や運動に気をつけていた方も徐々に動けなくなったり、認知症になってしまったりします。
 老衰の方を看取るようになって、人生というのは太陽が東から昇って西に沈むように自然な流れであり、例え日が暮れてもアフターファイブを楽しむ気持ちでいるように悲嘆しない方がよいのではないかと思うようになりました。健康に気をつけること大切ですが、人生が暮れていくことについて達観していくことも必要です。
 フレイルも、商魂たくましい各業界が集まってきています。フレイル予防のためにサプリを飲みましょう。フレイルはこんな運動で予防できます等々。人が老いることを何かいけないことのように吹聴することに違和感を感じてしまうのは間違った考えでしょうか。
 フレイルやロコモティブ症候群の予防には、何歳になっても何か生きがいを持って活動することが一番良いような気がします。体操や運動が苦手だったら何か遠出するような趣味を持って出かけてみる。カメラを担いで遠くの景色を撮りに行くだけでもかなりの運動になります。おいしい物を食べに小旅行に行ってみてもかなり歩くと思います。近所を散歩してスケッチしたり俳句を詠んでみることでも頭を鍛えることになるでしょう。夕食に惣菜を買って済ませたり買い物を何でも宅配にしてしまうのではなく、今まで作ったことのないお料理にチャレンジしたり買い物に歩いて行ったりするだけでも頭を使ったり有酸素運動になったりします。
 必ずしも何かを買ったり参加費用を払うことがよい対策である訳ではありません。フレイルを罹患率100%の疾患と捉えるか、誰もが通る道と捉えるか。前者とすると我々医療機関や介護機関にも商機なのですが、それに安易に乗っかるべきではないような気もしています。

2018年5月 2日 (水)

あしたのジョーにドーピング

 年代的に、あしたのジョーという漫画は大好きです。自分の好きなこと、命を懸けて立ち向かえることに全力でぶつかり、最後真っ白になるまでやり切ることができれば例え短命だったとしても人生に悔いはないでしょう。そんな生き方に憧れたりもします。
 もしジョーが外来に診察に来たら医師としてどうしようかなと思います。
「先生、手が震えるんですが。」とか「時々フラつくんですが。」とか言われたら、どうするべきでしょうか。根本的な対応をしようとすれば、ボクシングを止めなさいか、クロスカウンターを狙うのは止めて、極力殴られないボクシングにしなさいと指導すべきでしょうか。どちらもジョーではなくなってしまうアドバイスですが。それとも、めまいの薬を出したり震えやしびれの薬を処方して対症療法すべきでしょうか。そんなことして意味があるのでしょうか。
 
日々診療をしていて、ある意味ジョー的な生き方をしているな〜と思う方々に出会います。例えばそう、精神的に健康で知的にも問題のない愛煙家の方々です。タバコが人体によくないこと、様々な病気の元であること、寿命を短縮する可能性が高いことは把握した上で、それでも自分の好きなようにするという選択をしている人たちです。そういう生き方も有りだと思います。他人に悪影響を及ぼさない限り、みんなが長寿を目指す必要はないと思います。「短命上等」といういなせな生き方なのだと思います。
 糖尿病や脂質異常症、高血圧があっても毎日の飲酒や食事を全く節制しない方もいます。糖尿病の薬をたくさん飲みながら、コーヒー牛乳やジュースを1日2
Lとか飲んでいることを思わず知ってしまうこともあります。
 根治的には、というか倫理的にはやはり治療を考える前に禁煙したり食事や生活習慣を改善することが先決でしょう。タバコや食事をそのままにして投薬を続けることが本当に正しいのでしょうか。

 医師としては、まるであしたのジョーにドーピングをしている感じがしてなりません。俺は例え死んでもボクシングをやるぜ、というジョーに下手な薬を処方するのは忍びない。

 
EBMとかガイドラインとかに沿って診療に当たると、まず2〜3ヶ月食事や運動など生活習慣を改善しましょうと指示して、それでも検査値がよくなければ治療を開始され、あとは延々と薬が継続されます。延々と薬を処方することは、製薬会社、医師、節制したくない患者さんの三者にとってwinwinwinです。最近は次から次へと新しい薬を追加されて、EBMの名の下に山盛りで薬を飲んでいる方もいますがどうなんでしょうか。
 もちろん、人間は精神的に弱い生き物です。なかなか生活習慣を改善できる方は多くはないでしょう。しかし、「私は自分のしたいようにすることに決めてるの。」と断固タバコや不摂生を貫く方だったらどうでしょう。節制している方と同じように公費を投入して治療をすべきでしょうか。もちろん公衆衛生的にはそういう方が将来脳梗塞になったり透析になったりすると、公費で治療した場合より社会的費用負担が増加するため、公費で治療した方がトータルではよいことになっています。しかし、倫理的、ジョー的にはどうなのでしょうか。公費を導入するのであれば、投薬の前に栄養指導や心理的・社会的サポート、精神的な指導などを徹底するべきではないかなと思います。そういう意味では、本当は医師よりも栄養師や認知行動療法のできる心理士、保健師などが前面で活躍して人々の意識や生活習慣を変えていくのが理想のように思います。

 最近呼吸器内科の友人と話していると、タバコ吸っている肺がんの方にオプシーボとか使っていいのかな?と言います。

 人間、レベルはあっても多少はジョー的に生きています。山に篭って精進料理を食べている仙人でもなければ、完全に自律できる人間などいないでしょう。いったいどこまで許容しどこからどこまで公費で医療介入するのか。そろそろ本格的に決めないといけない時期にきています。議論するだけではダメで、どうするのか決定しないといけない時代になっています。
まあ現状与党が与党なだけに、この手の議論には本腰が入らないでしょうが。
 ジョーの生き方には憧れます。それができない自分なので、自分の仕事を全うするためにできる限りの節制をしてます。ジョーのような生き方を選ぶのであれば、その結末にも責任を取れる人間である必要があるでしょう。ジョーはホセにどんなに殴られても自力で立ち上がらないといけない。自分の好きなように生きるというのは本当は厳しい生き方です。

 タバコによる病気で、空気の中で窒息していくような終末期は見ている方も非常に辛いです。もしタバコを吸うのであれば、「肺炎上等、梗塞上等、肺がん上等、
COPD上等、先生、途中でタオルを投げ込んでくれるなよ。」とカッコ良く言ってほしいものです。それだけの度胸と覚悟がないのであれば、少しは自分を律するか、禁煙治療をしたらどうでしょう。

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