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2019年5月21日 (火)

トラウマインフォームドケア

 この週末は学会に参加してきました。一番印象に残ったのはトラウマインフォームドケアという講演でした。

 トラウマというのは一般的な用語にもなっていますので、知っている方も多いと思います。自然災害や事故、暴行や虐待、各種ハラスメントやいじめ、戦争体験、他人の死や事故の目撃体験などなどさまざまな要因によって引き起こされる「心のけが」とか「脳のきず」とも言われる状態とのことです。単回のトラウマ体験も、繰り返されるトラウマ体験もあり、極度のストレスを受けており通常の対応では対処できない場合が多く、その後の人生にも心身ともに大きな影響を及ぼす状態です。

 子供の時に様々なトラウマ体験を受けることをACE(Adverse Childhood Experiences)と言い、成人後に健康状態の悪化や社会的問題なども生じてしまう可能性があり社会全体で対応していく必要があるというお話しでした。

 医師として生活習慣病や慢性疼痛などを診ていると、何でこれほど病気を様々もっているのにセルフコントロールが全くできないのだろうか、と苛立ちを覚えてしまうことも正直あります。整形外科ですと自傷行為で来院され、どうすれば防げるのだろうかと考えながら縫合することもあります。その人の背景を考えるとつらい体験があったり一人ではどうしようもない事情を抱えている場合も少なくないのだろうなと思い、本当に全ての医師がこういう概念について深く知る必要があると強く感じました。

 今、まさに地域ケア会議の方でも「困難事例」といって様々な問題を抱えていて医療や介護のみでは対応困難なケースをどうするかという話し合いをしています。福祉関係者や地域の方々、もしかすると宗教関係者や不動産関係者などなども含めて考えていく必要があるのかもしれません(本当は政治家も入るべきでしょうけど)。

 最終的には現代のコミュニティー不全を再構築していく作業なのかもしれず、壮大な話の一端を見ているようです。今の専門医ではとても対応できない話ですね。昔の赤ひげ先生は町に出て行ってトラウマのある方に様々な社会的処方箋を出していたのでしょうか。

 診療所の問診票にさりげなくトラウマに関する質問なども入れてみたら記入する方はいるだろうか。診療所に心理療法士のような方が居たら利用される方がいるだろうか。これからプライマリケアの現場にどう取り入れていくべきか。いろいろ考えながら学会から帰ってきました。

2019年5月15日 (水)

歩行困難の種類

 「歩きづらさ」を主訴に整形外科を受診する方は少なくありません。歩きづらさにも様々な原因があり、鑑別診断が必要です。

 脳の疾患を中心とした中枢性の歩行困難、末梢神経疾患の場合、腰などが原因の脊椎疾患、関節などが原因の場合、血流障害などの問題の場合、内科的な原因の場合、年齢的な変化などなど。それらが単独で歩行困難を生じている場合と、いくつかの要因が組み合わさって歩行困難となっている場合とがあります。

 診断を進めるには、整形外科以外にも脳外科や神経内科、血管外科など複数の科での協力が必要になることも少なくありません。

 町で歩いていて歩行困難の方を見ると無意識に原因疾患を想起してしまいます。歩行困難の診察の第一歩は歩く様子を観察することなので、診察室に入ってくる様子でどの辺に問題がありそうか類推が始まっています。整形外科が混雑していても2つの診察室を併行して使用しないのは、入ってくる様子がかなり重要だからです。隣の診察室に先に入って待っていただいた方が効率的だとは思うのですが、入ってきた時の様子でどこが悪そうか、認知症等なさそうか、他科的な問題はなさそうかなどいろいろ類推しています。

 急速な麻痺などの場合は急いで基幹病院への紹介が必要です。徐々に歩行困難になってきている場合は、リハビリテーション等を行いながら経過をみて診断を深めていく場合もあります。

 神経は障害が続くと回復が困難になっていきます。あまり進行してからではなく、早めに医療機関を受診していただいた方がよいと思います(診断がすぐにつかないことも少なくないのですが)。

2019年5月 8日 (水)

初診時に骨挫傷等は診断困難です。

 怪我をして来院された時、レントゲンを行って骨折の所見がなくても骨が痛んでいる可能性は完全には否定できません。あくまでレントゲンでは骨が割れていたりズレていたりするとその変化が見えるのみで、骨の内部のみが損傷している状態(骨挫傷)は見えません。

 疼痛や所見が強く、確定診断が必要な場合はMRI検査をすると骨挫傷もほぼ確認できます。ただ骨の変形やズレがなければMRIを行う必要性は一般的には低く、患部に負荷を掛けないようにして安定するのを待つことになります。ただ、大腿骨頭や膝周囲など後から陥没してくる恐れがある部位では、早めにMRIを行ったりすることもあります。

 連休明けですと、連休中に怪我をして救急病院を受診し、レントゲンで骨は何ともありませんと言われたけれどやはり痛いとのことで診療所を受診する方もいます。最終的に骨挫傷の診断となった場合、「最初は大丈夫だと言われたのに。」とやや不満な方もいますが、最初の所見で骨は何ともないということは間違ってはいないです。救急医としては「骨挫傷などが後から判明することもあります」、と最初に話しておくと万全ですが、忙しい救急で全てを説明することもできず仕方が無い面が多いと思います。

 骨挫傷ですと、数週~数ヶ月してレントゲンを再度行うと骨硬化しているのが確認できることが多いので経過により再検査することもありますが症状が治まっていれば必須ではありません。

 骨折といってもレントゲン上明らかな骨折から、骨挫傷や剥離骨折や若木骨折や骨端線損傷など診断が微妙な骨の損傷もあり、どこまで固定するか精査するかなど希望も含め経過により相談が必要です。

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