内側半月板後角断裂
中高年の方が膝関節痛で病院を受診すると、よく「膝がすり減っていますね。」と言われると思います。変形性膝関節症を説明する場合、立位X線撮影で関節の間が減っていることを「すり減っている。」と言うと分かりやすいと思われるため、医師としてもよく言ってしまう言葉です。
ただ、現実にはすり減っているから痛いということがどの位正しいのかは微妙なところだと思います。ほとんど関節の間がなくなっている方でも、膝は痛くないという方も少なくありません。両膝のレントゲンを比べて、両方同じようにすり減っていても、痛いのは片方ということもよくあります。一方ほとんど関節の間が保たれていても激痛の方もいます。
膝関節に痛みを生じている時には、すり減っているだけではなくどこかで実際損傷しているか炎症を起こしているかしているのではないかと思います。レントゲンのみではなく、MRIやエコーで観察すると、痛みを生じている原因がよりよく分かる場合もあります。半月板が損傷していたり、軟骨部が損傷していたり、炎症を起こしていたり。時にはレントゲンでは分からない骨の損傷や障害の場合もあります。関節炎では血液検査などが必要になることもあります。
時々エコーで観ていると内側半月板が内側に外れている方がいます。半月板というのは大腿骨と脛骨の間で接地面の隙間にあり荷重を分散したり安定化したりする大切な役割があります。その半月板が関節の間にないということはやはり関節の障害につながる可能性が高まるものと思います。半月板が内側にずれてしまう原因として、内側半月板後角断裂という疾患があります。
典型的には受傷時に膝窩にポキッとかビシッとかいう感じで痛みを生じ深く屈曲できないとかいう症状を生じます。半月板はレントゲンでは映らないので、診察とMRI等で診断されます。MRIでも分かりづらいこともあります。中高年の女性で起こることが多く、損傷した半月板をそのままにしていると関節自体のすり減りが進んでしまう恐れがあると言われています。
治療としては、早期であれば損傷した半月板を内視鏡手術で修復する場合もあります。ただ、疼痛の具合や下肢の角度、年齢、術後松葉杖で荷重を減らすことができるかどうかなど手術適応にはかなり制限もあります。膝自体が内反していると半月板修復の適応は少なくなり、矯正骨切り術という骨の角度を変える手術が行われる場合もあります。
急に膝を痛めた場合、松葉杖か、せめてT字杖を使うことをお勧めすることがあります。中高年の方では、大抵「杖は嫌」とおっしゃいますが、関節が急速にすり減ってしまったり手術の可能性を考えれば使ってみることも前向きに考えた方がよいかもしれません。そもそも年齢的に松葉杖や杖がうまく使えないということも少なくありませんが、あまりに使えないと諦めざるを得ないです。杖歩行も含めて歩行訓練を理学療法士に依頼することもあります。
手術を行った方がよい状態の方でも、松葉杖が使えないと手術自体が無理となります。そういう場合は鎮痛剤やリハビリテーションで保存的に治療を行い、将来歩行が困難になったら人工膝関節置換術という方法もあります。
早期の変形性膝関節症は、もっと細かく診断をしてそれぞれの病態にあった治療を行っていくようにできればよいのですが、一方ではMRIなどは極力必要最小限にしないといけないので、どこまで深く追求すべきか相談しながら診察や治療を行っていければと思います。