2023年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« 2022年4月 | トップページ | 2022年6月 »

2022年5月24日 (火)

明るい未来が末恐ろしい

 久しぶりに日本整形外科学会学術集会に現地参加してきました。やはりライブで講演会を拝聴して質疑のやりとりを生で見るのは大切ですね。いろいろ勉強になりました。

 私の世代が運良く高齢化できたとしてあと2030年後には医療も科学技術も進歩して明るい老後が待っているような期待が高まりました。様々な疾患が薬の投与や人工関節などの手術などによって現在よりさらに治る時代になっているかもしれません。歩けなくなってもロボットが買い物に連れて行ってくれたり身の回りの家事もロボットなどが自動的に行ってくれるようになっているかもしれません。

 その一方で少し恐ろしく思えることもあります。本来生体は自分の体を自律的にコントロールしているものです。体温や血圧を一定に保つのもそうですし、体内の様々な物質の濃度は正確に一定範囲内に調整されていますし、免疫反応なども自然に獲得し様々な疾患に抵抗力を得ています。

 それらをコントロールする仕組みは急速に明らかになってきており、どの細胞がどのようなサイトカインを出したり信号を送ったりしてどのように調整しているのかということが近い将来すべて解明されていくように思います。将来的には人為的にあらゆる体内環境を変化させることができるようになるでしょう。これが数十年後になるとどういうことになっているのでしょうか。本来生体として自律的にコントロールすべき代謝や免疫を修正するために体内に様々な生物学的製剤を含めた薬剤が投入され、体のアチコチが機械になったり修復されたりして、何か自然の中の生命体を離れて行ってしまうような気がします。様々な化学物質を定期的に注入し、部品をメインテナンスしないと機能しない人工物に近づいていくような。

 決して現在の様々な治療や手術を否定的に見ている訳ではないのですが、すでに糖代謝や脂質代謝や尿酸のコントロールに対して薬剤が投与され、胃酸も人為的に減らされ血液の粘度も人為的にコントロールされている方は少なくありません。整形外科的には骨代謝も薬剤によってコントロールすることが進んでいます。生体反応のあらゆる部分を人為的に修正することがどこまで希望され許容され心理的にも財政的にも可能なのか。

 医学の進歩に哲学や倫理が追いついていないように思います。稀に90歳過ぎて「今までは医者嫌いで検診も受診もほとんどしたことがない」という方が体調が悪いということで受診され、大病が発見され為す術も無く短期間で亡くなってしまうことがあります。そうすると何で今まで医療機関に掛からなかったのかという疑問が沸く一方で最も自然に生きた人生だったのかもしれないなと思うことがあります。

 医学者は常に哲学者や倫理学者と一緒に仕事をしないといけないのかもしれませんね。

2022年5月16日 (月)

ロッテの佐々木朗希投手の育成方針

 先日完全試合を達成した佐々木投手の育成方法が少しだけテレビで放映されていましたが、ここまできちんと医学的に管理されて大切に育成された野球選手はあまり聞いたことがありません。

 高校時代に甲子園予選の決勝で投球を回避したことも難しい判断だったとは思いますが、ロッテに入団した1年目は骨端線(成長線)が残っていたため1軍での登板はしなかったそうです。

 中学の時に恐らく腰椎分離症で数ヶ月野球ができなかったそうですが、この時も無理せず我慢したことが今の活躍につながっているのではないかとこれは想像ですが思います。

 日本ではどうしても多少痛くても今休みたくないと頑張るスポーツ少年少女が少なくないので、有能な子供ほど大人になる前にどこか故障してしまいプロにまではなれないか、プロになった頃には腰椎の分離症が完成していたりして最大限の能力を発揮できないことが少なくないように思いますが、子供の時からきちんと医学的に適切に成長するよう周囲の大人が気をつければ、もっと世界で活躍できる日本人が増えるのではないかなと思います。

 日本ではまだまだ医療機関より民間療法の方がスポーツに近いことが多いので医療機関では初めからきちんと話を聞いてもらえないことが少なくありません。松坂世代から佐々木世代へ、野球に限らず全てのスポーツを頑張りたい親子の意識が変わっていってほしいと思います。

2022年5月 9日 (月)

ベーカーのう腫破裂

 膝の後ろが腫れているとのことで来院される方は少なくありません。赤く腫れていたりすることなく、膨れているようになっている場合は膝窩部ガングリオン(ベーカーのう腫)というものである可能性が高いかと思います。

 これは膝関節を包んでいる関節包が変性(痛んで)してきて穴ができ弁状になり関節液が外に漏れていき、袋状の組織の中に溜まっていくことによって起きることが多いです。悪い物ではないので、運動などに支障がなければ放っておいても大丈夫です。大きくなってくるとしゃがんだ時などに膝窩で圧迫され痛かったりしゃがむことが困難になったりします。歩行自体はそれほど障害されることはないように思いますが、歩行に支障がある場合は膝関節自体の問題によるところが大きいと思います。

 この膝窩部ガングリオンは、時に破れることがあります。大きなガングリオンが破れると下腿背側の方に内溶液(サラサラの液体の場合とゼリー状に固くなっている場合があります)が流れ落ち、下腿以遠が浮腫んだり腫れたり内出血が広がったりすることがあります。

 下腿~足全体が赤く腫れたり内出血したりしていると、細菌感染による蜂窩織炎や深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)などと鑑別診断が必要です。特にもともと関節リウマチの様な滑膜炎のある方ですとより感染性疾患や血栓などとの区別が難しいこともあります。大きなガングリオンが破れて拡散すると静脈を圧迫して実際に深部静脈血栓を生じている場合もあり得ます。

 診断としては超音波検査や採血が主で、場合によりMRI検査やX-Pなども必要です。ベーカーのう腫の破裂が原因と分かれば、基本的には吸収されてくるのを待つのが主であまり心配はありません。炎症止めの内服をしたり弾性包帯で圧迫したりします。ベーカーのう腫破裂のみと診断できる場合は炎症止めのみで大丈夫ですが、腫れ具合などでは抗生剤や血栓治療の薬を使用することもあります。

 膝の後ろにガングリオン(ベーカーの種)があると指摘されている方は、下腿が急に腫れたらベーカーのう腫の破裂も念頭におくとよいかもしれません。通院中の方で医師側も把握している状態ですと診断は比較的容易ですが、破裂して初めて診察する場合、最初に蜂窩織炎や深部静脈血栓を医師が考えてしまうかもしれません。そうすると方向性が違うので検査や治療が適切に行えない可能性もありますが、大きなガングリオンがあったと言っていただけますとそれを手がかりに縮小したガングリオンを確認できれば診断に到達しやすいかもしれません。

 

2022年5月 4日 (水)

画像検査の適応と限界

 昨今の科学技術の進歩に伴い、高精度のCTMRIなどの画像検査を行うと正しく診断できると思っている方が多いと思います。ある意味それは正しいことですが、一方ではそう考えると落とし穴に嵌まる可能性があります。

 例えば変形性膝関節症では、レントゲンで関節の間がすり減っていることが診断根拠の一つとなりますが、関節の間が完全に無くなっている方でもまったく痛くない方も少なくありません。膝のMRIを行うと当然軟骨欠損、半月板損傷と診断されますが、症状とかみ合っていない所見にどれほどの意味があるのかどうか。画像所見で高度変形性関節症と診断されると手術等を勧められると思いますが、症状や機能状態、家庭の状態なども併せて治療方法は決めていく必要があります。

 腰椎のMRI検査をすると年齢とともに神経の通路が所々狭くなっていることが少なくありませんが、それが全て脊柱管狭窄症となるかと言うと、必ずしもそうではありません。椎間板ヘルニアが存在していても、そのヘルニアが現在の症状を起こしているかどうかは画像だけでは分かりません。

 どうしてこういう現象が起こるかと言うと、臨床的な意味と画像所見はパラレルではないということです。我々医師は問診と診察所見でほぼ89割は診断をしています。画像検査というのはその診断を確かめるために行います。決して画像検査で診断してそれを診察所見で確かめる訳ではありません。

 例えば骨折では、骨折面がフィルムに対して垂直に位置した状態で撮影しないときちんと写りません。なので診察してこの骨がこういう角度で折れているだろうということを類推した後でないと正しいレントゲン撮影は行えません。MRI検査でも診察所見でここの神経が障害を受けているだろうという類推をした上でオーダーしないと正しい診断には繫がりません。

 また、精密検査をする目的もしっかり考えないといけません。例えば肋骨が骨折しているかどうかレントゲンでは分からないことがあります。最近はエコーで見て診断することが多いですが、医療機関によってはCTを行うことがあります。ただ、CTで肋骨骨折が判明したとしても、治療はそのまま様子を見るか、鎮痛剤を処方するかが主です。肋骨骨折があるかないかという意味でCTを行う意味はあまりありません(ひどい胸部損傷で肺挫傷の有無などを確認する意味では有意義ですが)。腰椎のMRIも、試しに撮ってみたいというだけで行うと、余計心配になったり迷ってしまったりする場合もあるので、基本狭窄やヘルニアが見つかったら手術も検討するとかいう状態の場合に精密検査を受けるとよいかもしれません。

 精密検査はお勧めしても希望されなかったり、逆に必要ないと思われる方でも精査を希望されたりとご希望は人やその時の状態によりそれぞれです。社会保障費増大の問題もありますし、なるべく必要最小限で適切に行えるように相談できるとよいなと思います。

« 2022年4月 | トップページ | 2022年6月 »