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2023年2月 1日 (水)

もし医師の立場だったらゾコーバやレカネシブを処方しますか?

 5/8から新型コロナウイルス感染症が5類相当という分類に変更されることになりました。インフルエンザと同じくらいの扱いになるので社会的制約はだいぶ緩和されるものと思います。ただインフルエンザと比べると通年性で感染性の高い疾患であることは変わりが無いので医療がどうなっていくのかは心配な面も多いです。

 昨年新型コロナウイルスの治療薬であるゾコーバが緊急承認されました。初の国産治療薬とのことでメディアなどでは賞賛され期待されていますが、診療所レベルではまだ使われている話はあまり聞きません。これほど末端の臨床現場と専門家(研究者)やメディアとの間で期待度が異なる薬も他にないのではないかと思います。

 ゾコーバで示された効果効能は、「倦怠感または疲労感、熱っぽさまたは発熱、鼻汁又は鼻づまり、喉の痛み、咳という5つの症状の持続期間が中央値で8日であるところを7日に短縮する」というものです。どうでしょう。8日くらい続く症状が7日くらいになるというのがどの程度意味があるのかという疑問が沸いてこないでしょうか。現在新型コロナウイルス感染症では自宅療養が7日に短縮されています。しかも、療養を解除するための前提は症状が7日目に軽快していることが必要です。ということは療養期間を短縮した時点で7日目には症状が軽快していることが多いことを政府が把握していたということです。そもそも臨床研究時の症状軽快の中央値が8日というデータが妥当なのかどうか。しかも添付文書にある「症状が快復した被験者の割合」というグラフをみると、その後20日目では本剤を飲んだ方とプラセボを飲んだ方では割合に有意差がなく、長期的には後遺症と言われるような遷延症状を抑える効果もなさそうです。

 臨床医として一番期待したいのは重症化や死亡を防ぐことですが、そこは効果が否定されています。

 緊急承認されたということは、まだ長期成績や詳細な副作用の発生状況は分かりません。現状胎児に奇形を生じる可能性があるとのことで若い女性には禁忌になっています。また、様々な薬と併用できないことになっています。

 話は別ですが、アルツハイマー病の新薬レカネシブもFDAで承認されました。早晩日本でも承認されるでしょう。この新薬も、早期アルツハイマー病の進行が1年半で27%穏やかになるという効果だそうです。認知症を改善する訳ではありません。あくまで進行を遅らせるのみです。1年半で27%遅らせるというのも、その違いを実感として感じることのできる人がどのくらい居るでしょう。どちらにしても進んでしまう訳ですが。

 ゾコーバは新型コロナの軽症の方から使えるとのことですが一人当たり万単位での価格です。レカネシブは年間で一人当たり数千万円必要だそうです。費用対効果の面でみても非常に疑問です。

 どちらの薬も、有意差の出る部分を無理矢理何とか見つけたという印象しか持てません。有意差ありということが実際にどういうことなのか。研究では大規模調査で差が付けば有意差ありですが、臨床現場では目の前の患者さんが良くなっていくかという視点になりがちです。もちろん科学的には大規模調査での有意差が勝るのですが、将来どういう評価になっているのでしょう。

 実戦的な臨床医であれば、メリットに乏しくリスクの多い高額な薬を処方しようという気はあまり起きないのではないかと思いますが、もし使用しなかった場合患者さんには科学的に効果のある薬を使わなかったということで訴訟を起こされる可能性も否定出来ません。

  現状日本の医療は薬をどんどん使うことが前提になっているような気がしてなりません。製薬会社や調剤薬局のコマーシャルが溢れていくのも納得の状況ですね。薬の使用を最小限にしようという試みは時代錯誤なのだろうかと悩ましい日々です。

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