骨粗鬆症の治療も長くなってきました。
骨粗鬆症の薬は私が医師になった頃はダイドロネルというビスフォスフォネートの最初の薬くらいしかありませんでした。他はカルシウムやビタミンD、Kなどを使用していました。その後ビスフォスフォネートも数世代新しい薬が開発され、SERMという種類や副甲状腺ホルモン系の薬、より作用の強い注射薬などが登場してきました。
当院で骨粗鬆症の治療を行っている方でも、もう10年以上治療している方も少なくありません。効果判定を行うには腰椎と大腿のDEXAが標準であり、手首や踵での骨密度測定では効果判定は基本できないので当院では早くからDEXAを導入してみました。DEXAで継続評価していると、臨床試験ほどどんどん骨密度が上昇することは少ないですが、維持できているか緩やかに上昇している方が多いです。自然経過では年齢とともに平均値は低下していくので、維持しているだけでも同じ年の方の平均と比べると相対的には良くなっていきます。何故臨床試験ほどには上がらないかと言うと、ひとつには臨床試験程に強力な治療は実際には難しいことがあります。骨粗鬆症になる年齢の方々は内科系の薬等をたくさん飲んでいることも多く、どうしても骨粗鬆症治療の優先順位は低くなりがちです。ポリファーマシーの観点などから、他の薬との兼ね合いで調整することが少なくありません。また日本人はどうもカルシウムやビタミンDなどへの耐性が弱いのか、血中や尿中のカルシウム濃度が上がりすぎたり腎機能障害を生じることが意外と多いため、臨床試験より少なめに処方することが多いからもあるかと思います。逆に臨床試験ではカルシウムとビタミンDを充分量処方することが多いのですが、それで副作用などが多発しなかったのかやや疑問に思います。大腿骨の骨密度などは、歩行量を中心とした活動量による面があると思います。どれだけ骨粗鬆症の治療をしていてもほとんど歩いていない方の骨密度は低下していく傾向にあります。
骨粗鬆症の治療目的は高齢になってからの骨折を減らすことです。転倒などがあるため骨折をなくすことはできませんが、骨格が維持できれば活動性を維持できる可能性が高まるためQOLを維持するには重要な要素かと思います。
骨は中年期以降は自然経過としては薄くなっていくので、どこから治療介入しどこで終了するかは悩ましいところです。50~60歳代で骨密度が高度に低下していたり小さな骨折を繰り返しているような場合は早期に治療介入した方がよいと思います。脊椎の圧迫骨折の最初の1回目を防ごうという目標もあり、この場合最初に強い薬を使う必要があるかもしれません。年齢的には80歳代後半、90歳頃になると、活動レベルにもよりますがポリファーマシーの問題もあり治療は軽くしたり終了していってもよいのかなと思う場合も少なくありません。その間に、どの時期にどの薬を使用するかは医師毎の方針が異なります。基幹病院の専門医の先生の講演会では、何歳くらいまで薬を投与するか聞いてみることもありますが、あまり明確な答えが返ってくることはありません。基本生涯続けるべきという方が多いかもしれませんが、どこまで続けるべきかは難しいところです。現在のエビデンスというのは早期介入には熱心ですが、人生の終焉に向けての対応についてが欠落していることが多く、そこは転倒傾向や体力、活動量などを含め相談が必要かと思います。
骨粗鬆症の薬は不安のある方も多く、ビスフォスフォネート等の骨吸収抑制系の薬は歯医者さんが大嫌いなので、処方していると歯科で処置してもらえないという事態になることもあります。
骨粗鬆症の治療は高血圧や脂質異常症等よりは短いかもしれませんが基本長期にわたるので、医療費をどこまで使うかという金銭的な面も含め、ご本人の希望等によりそれぞれのレシピで取り組んでいく必要があると思います。
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