2024年7月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

心と体

2024年7月 4日 (木)

基本理念としてのかかりつけ医

 昨年からさまざまな動きの中でモヤモヤとしたものが頭の中にあり、ブログを記載することができずにいました。それらに少し整理がついたので書いてみたいと思います。

 現在の日本で一番の問題は基本理念がないということなのではないかと思います。いったいどういう国にしたいのか、どういう社会を目指すのか、どういう医療とするのか。確固とした基本理念が定まらないので目指すべき方向が分からず舵の切りようもない状態となっています。

 長期政権に就いている与党も様々な理念の人がいてどういう主義なのか今ひとつ分かりません。その多様性が良いと言いますが、結局寄らば大樹の陰で一つの党に在籍しているだけで、基本理念がしっかりしている人には居ることが耐えられない政党になっているのに気づかないのは悲しいことだと思います。韓主主義団体に賛同する人達が民主主義を名乗り君主主義を目指しながら米主主義政治をしているのでしょうから生粋の日本人にはついて行けないのではないでしょうか。

 政府や厚生省、医師会やメディアもかかりつけ化を推進すると言いますが、「かかりつけ医」という言葉には何の意味もありません。例えば大学病院の教授であっても、通院し続けていれば「かかりつけ医」です。現在の日本では複数の「かかりつけの専門医」へ通院することが一般的となっています。それを承知で政府やメディア、医師会も敢えてかかりつけ医という言葉を使っているものと思います。現在の日本でかかりつけ医という言葉を使っている人は、無意識に使っているか、政府の本当の長期方針を把握して敢えて使っているのでしょう。

 日本はイギリスのような家庭医制を目指しているのでしょうか。個人的にはそれでもよいと思いますが、一長一短で必ずしも最適解ではありません。家庭医制は専門医中心の医療からの180°転換でありそのままの意味ではほとんどの専門医が反対し大多数の一般市民も希望しないでしょう。家庭医制になったら、今のように自分の受診したい医療機関や専門医を自由に受診することは出来ません。家庭医制は基幹病院の専門医中心の医療から、地域の医療機関の総合的に診療する家庭医中心の医療へ転換するということなのでまずゲートキーパーとして家庭医を受診し、大抵のことはその医師に従うしかなくなります。今の日本のように専門医を併行して受診し続けるということはできなくなります。本当に家庭医制へと進めるのであれば、まず専門医への軽症例や生活習慣病等の慢性疾患、安定期の通院は禁止しないとなりません。専門医へのフリーアクセスを禁止せずに家庭医へと変換することはできないでしょう。

 長期処方、オンライン診療、リエゾンサービス、人間ドックなどの予防医療、保険診療外の自費診療など現在政府が進めている医療政策により、総合病院の専門医が地域の診療所へ逆紹介するモチベーションはどんどん下がっているように思います。ほとんどなくなっていると言っても過言ではないかもしれません。専門医が診察する必要がなくなったとしても、病院の総合診療医へ通院するということが増えています。リフィル処方箋の推進は要するにゲートキーパーを素通りしてよいことにするという政策です。マイナンバーカードで処方内容や健診結果を見られるようにするということは、基幹病院で人間ドックを受け長期処方した内容を診療所でも見られるようにするということで、定期的な検査や処方は基幹病院で行う方向で進んでいくことになりそうです。

 最近は専門領域に特化した診療をする医療機関も増えてきて、整形外科のみでも脊椎、膝関節などそれぞれ別の専門医へ通院している方も少なくありません。保険診療の所と自由診療の所とを併行して受診されている方もいて、専門医の分業制は進むばかりです。すでに専門の医療機関に受診されている方が診療所を受診した場合、どこまで介入すべきなのか。悩ましいことも少なくありません。自由診療を受けている方では紹介や逆紹介もないので多重に治療を受けていたとしても全く把握できません。

 在宅診療も在宅専門医が主に担うようになっています。診療所からすぐに往診できる介護施設であっても、地域の診療所から在宅診療を行うことはできないのが一般的です。遠方の在宅診療所との提携が結ばれていて普段かかりつけるのは遠方の在宅診療所で、やはり怪我をしたり体調が悪くなると近隣の医療機関に受診するという風に役割分担ができあがっています。また基幹病院自体が在宅診療部門を立ち上げて、遠方でも病院からの在宅診療を行うようになっています。今後医師の働き方改革が基幹病院で進んでいけばますます病院での診療のみではなく在宅診療も行えるようになっていくことでしょう。

 最近は往診のみ行う医療ビジネスも政府が推進しています。一般の医療機関の知らないところで、夜間や休日に往診を受けている方も少なくないことでしょう。

 診療所に何十年と通院している方でも、市の認知症早期対応事業ではご本人やご家族が地域支援センターに相談に行くと、その診療所ではなく専門病院へ直接相談することを促されます。その後は専門病院と支援センター間で連携が行われ、地域の診療所は関わらなくなっていきます。介護保険を申請すると、診療所でリハビリを行っていても介護リハビリ施設へ通うこととなりそのまま介護施設へと永続的に通うようになっています。 

 家庭医のように、様々な疾患に対応しようとすると1回に行う検査項目や処方する薬の種類はどうしても多くなります。高血圧、高脂血症、糖尿病、便秘や花粉症、認知症や骨粗鬆症、時には関節リウマチなども一緒に診察するとコレステロール、血糖、カルシウム濃度、炎症反応などを同時に採血しないといけません。また、それぞれの薬を処方すると、絞ったとしても種類は多くなります。診療報酬上、多項目検査や多種類処方をすると減点されるようになっています。つまり、家庭医がまとめて診察をすることを国としては止めさせたいという意思表示です。

 実際に行われている全ての施策が基本的に地域の家庭医的なプライマリケア医から引き離す方向のものばかりになっています。家庭医によるゲートキーパー化という理念がある人が政府や官僚やメディアに一人でも居れば、こういう方向には進んでいないことでしょう。要するに、短期的には家庭医の方向へ進めようという意思は国の上の方には全くないということです。家庭医などとは言わず敢えてかかりつけ医という言葉を使って報道し施策を遂行しているのには、ずっと先に全く別のゴールを設定している事情があるのだろうと思います。

 もっとも、医学の進歩とともに専門医による診断や治療は非常に高度になっており全ての科の少なくとも標準的な診断や治療を一人の家庭医が行えるのかということは疑問です。整形外科でも脊椎から全ての関節、炎症性疾患や骨粗鬆症まで全てを確実に診断治療できるのかと言われると難しいものです。家庭医がどこまでカバーするのか、どのように専門医と役割分担するのかということは難しい問題です。

 さて、診療所の医師としてこれからどの方向へ進んでいくべきなのでしょうか。今まで個人的にはゲートキーパーとしての家庭医のような存在を目指そうと思って診療してきました。ただ、それはどうやら方向性が日本の実情と合っていないと気がつきました。ここが昨年からモヤモヤしていた所です。

 もちろん当院にかかりつけている方にはかかりつけ医としてできるだけのことをしたいと思っています。ただ現状、実情と合わせるのであればゲートキーパーとしてのプライマリケア医である「家庭医」を目指すだけではなく、地元に住んで地元の患者さんの困りごとにかかりつけていてもかかりつけていなくても対応する「地元医」を目指すのがよいのかなと思うようになりました。例えば診療所ではかかりつけていない方の主治医意見書をたくさん書いています。日本語として矛盾があるように思いますが、現実的にはかかりつけの専門医は主治医意見書を書かないことも多いため、地元医が書くことになります。新患初診で初めてお会いし一期一会で2回目はお会いしないかもしれない方の主治医意見書は、自分をかかりつけ医と捉えようとすると心が折れてしまいますが、地元医として捉えれば書くべきなのだと自分に言い聞かせることができます。

 普段落ち着いている時は基幹病院や専門医へ通院して、困ったことがあれば地元医として他科専門医や在宅医、介護関係機関と連携して対応する。それが短期的な目標下で診療所に託された職務なのかなと思います。

 日本はこれからも「かかりつけの専門医」への通院が続くことでしょう。国として専門医間の連携がとれるシステムなど導入するのであれば何とかなるのかもしれません。それも期待薄なのでこのままでは効率が悪く医療費も嵩む一方だとは思いますが政府やメディア、おそらく内心は専門医も一般市民も望んだ医療の在り方なのでしょう。

 「家庭医を持ちましょう。」でも「地域の総合診療医を持ちましょう。」でもなく、「かかりつけ医を持ちましょう。」と言うのには、日本らしいそれなりの理由があるということです。

 

2023年10月30日 (月)

なんとなく痛い

 整形外科医にとって、なんとなく痛いという患者さんの訴えは逆に不安になります。

そういえばあの癌の転移の方も最初はなんとなく痛いと言っていたな、とか、骨肉腫の子供も膝がなんとなく痛いと言って診療所にやってきたな、とかいう記憶がふと頭をよぎるからです。

 なんとなく痛いというのは発症もはっきりせず痛いのかどうかもあやふやな表現で、痛みの原因を身体的な面でのみ調べればよいのかどうかも判然としません。もしかしたら心が痛がっているのかもしれません。

 なんとなく痛いという場合、身体的にも精神的にもより深く鑑別を考える必要があります。痛い部位の所見を確認して、そこに明かな原因があればその治療を行って経過観察でよいとは思います。ただ経過によっては早めにいろいろ精密検査を行う方がよい場合もあります。初診時の投薬には、その薬への反応がどうかを診ているという面もあります。炎症を抑えて改善するのか、薬に対する副作用への不安感がどうなのかなどなど。もし薬に対する不安が強いようでしたら、何か日常のストレスや不安を薬に対して表出しているのかもしれません。

 痛みの強さは、疾患の重症度とは相関しません。激痛で身動きできない方でも、疾患としては軽症のこともあります。逆になんとなく痛い状態でも診察しながら今生の別れを覚悟しつつ基幹病院へ紹介状を記載することもあります。

 日々何十人も痛い方にお会いする中で、なんとなく痛い方にこれまでどの位お会いしたことでしょう。その後心身共にすっきり軽快されているとよいのですが。

2023年9月27日 (水)

薬や検査キットの供給不足と日本の医療の特殊性

 現在、様々な薬が供給不足に陥っています。コロナやインフルエンザの長期蔓延、ジェネリック医薬品の工場での不正問題、AMR対策や鎮痛剤の使用方法の修正など様々な要因があり短期での解消は望めない状況になっています。

 咳止めや鎮痰剤、胃薬、抗生剤やアセトアミノフェンなど様々な薬剤が入荷予定不詳となっており処方したくても処方できない薬品もある事態となっています。これから冬になりインフルエンザや普通の風邪なども流行する時期に風邪薬やアセトアミノフェンが欠品になったらどうなるのでしょうか。

 鎮痛剤についても、最近は胃や腎臓に副作用のある消炎鎮痛剤よりアセトアミノフェンを選択する傾向が強まっておりアセトアミノフェンの需要は増大していますが、現状しばらくは消炎鎮痛剤中心の処方にならざるを得ない状態です。

 それにしてもこれほど長期に薬剤の供給が滞るというのは、何か裏に政治的意図があるのではないかと疑いたくなるくらいです。昔からある安価な薬を供給せずに高価な新薬への移行を促しているのかもしれません。市販薬への移行を促進しているのかもしれません。まあ全て単なる邪推ですが。

 コロナやインフルエンザの検査キットも納入見込みが立たなくなっています。今年は9月からインフルエンザが流行しており、同時検査が必要な方が多く、両方一緒に検査出来るキットが特に不足しています。

 現状コロナも軽症な方が多く、リスクの低い方は症状が軽ければ検査しないという選択枝を増やすしかないように思います。

 これを機会に、日本人の薬の使い方や検査の仕方について考え直すとよいかもしれないなと思います。特にコロナが流行してから、すぐに検査、投薬するということが以前よりさらに当たり前になってしまいました。

 感冒やインフルエンザ、最近のコロナもそうですが、軽症の場合は検査も薬もほぼいらないかもしれません。私もコロナになりましたがほぼ水分補給と寝倒して回復を待ちました。ある程度の高熱でも症状としてそれほどひどくなければ薬は使わなくてもよいものです。辛い時に頓服で解熱剤を使うくらいの感覚でいたほうがよいと思います。医療側も、頻回に受診する必要がないようにやや余分に処方したくなるものですが、控えなければならないものと思います。

インフルエンザの治療薬であるタミフルも、世界的に見て日本は使用量が飛び抜けて多いと言われています。本当に内服が必要な方がどのくらい居るのか。よくよく考える必要があります。

 検査も、日本では少しでも疑ったら検査する風潮があります。CTMRIの台数も日本は世界的に見て非常に多いと言われています。最近は早期診断早期治療のために本当に気軽にCTMRIを行うようになっていますが、本来は対象を絞って行うべき検査です。

 日本は国民皆保険で自己負担がまだ軽いので、検査や投薬に対する考え方が安易になっているように思います。本当は診療報酬も処方せん料や検査料を別にしないで診察料に含有すれば不必要な処方や検査は減るように思いますが、そこはタブーなのかもしれませんね。

 検査をいろいろしてくれる、様々な種類の薬をくれる、ということをよい医療機関とする感覚は昭和時代に置いてきていただけますと幸いです。

2023年9月 5日 (火)

橈骨近位端骨折

 手をついて転んだ時などに、手首ではなく肘を痛めることがあります。すごく腫れたり激痛を生じている場合は上腕骨骨折や肘頭骨折、脱臼等を疑いますが、ほとんど腫れていないのに動かすと痛いなどといった場合、肘の外側の痛みでは橈骨近位端骨折等を疑います。子供の場合は骨端線(成長線)があり、その部位での骨傷のことも少なくありません。因みに肘の内側の痛みが続いている場合は側副靱帯損傷などのことが多い印象です。

 橈骨近位端骨折で変位が軽い場合、安静時痛はあまりなく、ほとんど腫れないため、受傷からしばらく経ってから受診される方も少なくありません。肘が伸びない、ドアノブなどを捻ると痛い、何となく痛みが引かないというような症状で受診されます。

 通常の肘のレントゲンでは分からないこともあり、角度を変えてレントゲンを行ったり、場合によってはCTMRIで診断することもありますが、レントゲンで変位がよく分からない位であれば手術に至ることは稀なので、高額なCTMRIの必要性は低いかと思います。

 変位が大きいと手術的な固定が必要であったり、中には骨頭置換術など少し特殊な手術になることもあります。ただ、変位が大きければ最初から痛みが強く肘が動かせないことが多く、受診が遅くなることも少ないと思います。

 変位が軽くても、そのまま動かしていると早期にはズレてしまう可能性もあり診断後はシーネ(副木)などで固定します。受傷後既に数週以上経過していて、変位もわずかの場合は無理しないようにしてそのまま骨癒合を待つのでも大丈夫な場合もあります。基本骨折している場合は骨癒合まで23ヶ月は肘関節は無理しないようにするとよいです。肘関節の可動域制限等を生じている場合は機能訓練を行うこともあります。

 手をついてから前腕の痛みが続いているということで来院されてこの骨折を診断した際には、骨折とは思わなかったという方が多いです。子供の場合は、ご両親が「本当に痛いの?」と不審がることもありますが、骨折している可能性についても考慮した方がよいかもしれません。

2023年8月26日 (土)

新型コロナウイルスが蔓延しています。

 現在、新型コロナウイルスが蔓延しています。コロナ病床も満床になっている様で、入院困難事例が生じているようです。ただ、新型コロナウイルス感染症自体での重症化は以前より多くないので、あまり不安に思われないでいただけますと幸いです。

 インフルエンザ等も流行しており、時期的に熱中症などもあるため、発熱などの場合はそれぞれの病態を念頭に置いて対処することが必要です。救急の現場などでは対応困難事例も増えており、 現状救急車、救急医療、コロナ病床などを破綻させないようにすることが大切です。熱中症の予防、感冒時の自己管理、症状の軽い場合には救急要請は控え極力外来受診をするなどご協力をお願いいたします。

 新型コロナウイルスでもインフルエンザでも基本対症療法で改善することが多いので、感冒様症状で症状が軽ければ若い方やリスクのない方は自宅療養で様子を見ていただけるとよいのではないかと思います。

 当院でも引き続き発熱外来を出入り口を分けて行っています。これから秋冬になっても、通常の医療に戻ることは無理そうです。医療機関でもスタッフの発熱等で診療を縮小する時期もあるかもしれませんが、何とか乗り切って行かれればと思います。

 世の中は通常化しつつあるようにも思いますが、医療関係ではまだ緊迫したストレス下に居続けています。医療の世界と一般の世界の格差というものが固定化してしまわないように願うばかりです。

2023年8月 1日 (火)

整形外科的人生の選択

 変形性膝関節症に対する人工関節手術等は、命に関わる疾患に対する手術とは異なり必ず受けた方がよいものではありません。痛みや日常生活動作の困難さによりご本人が手術を選択すると決めないと手術にはなりません。

 変形が強く、痛みも強い場合、手術をお勧めするのですが、絶対に手術は嫌だという方は少なくありません。そういう場合、鎮痛剤を使用したり関節注射をしたり装具をしたりリハビリをしたりして対症療法的に経過観察します。

 ひとつ理解しておいていただきたいことは、年齢が上がると心肺機能が低下したり認知機能が低下したり様々な合併症が現れたりといろいろな要因により手術を希望してもいつかはできなくなるという点です。70歳台、80歳台、と手術をお勧めして希望されない方が、90歳頃いよいよ膝が痛くて歩けないとなった時点でやっぱり手術したいということがあります。全身状態が安定していれば手術は可能かもしれませんが、もう手術はできないということになる場合も少なくありません。時には高齢でなくても、他に大病をしたりして膝の手術はできないという状態になることもあります。手術不可であれば外出はできなくなり家の中でも歩行が困難で歩行器歩行や伝い歩きで何とか過ごすという状態か、最終的には車椅子やベッド上での生活となることは受け入れざるを得ません。様々な病気を生じていても普通に歩いてトイレなどに行かれている方と、膝以外は比較的お元気なのに日常生活動作もままならない方と両者を診ていると、膝が悪くて寝たきりに近くなっている方にはもっと強力に半ば強引に人工関節を勧めればよかったかなと自責の念に駆られることもあります。

 最近の人工関節手術は術後経過も安定していることが多く、痛みは緩和し歩行能力は保たれることがほとんどです。確かに大きな合併症や経過不良となることも稀にありますが、そのリスクをどこまで心配するかはご本人の考え方によります。時に友人の術後経過が悪いから自分は受けない方がよいと言われたという方がいますが、友人の経過が悪いから本人の経過も悪いという確率は高くはありません。ただ不安感や不信感が強い方に手術をしても術後経過は思わしくない場合があり、しっかり納得して手術を受けられない限り手術は勧められません。

 変形性膝関節症が進行してきた場合、どういう人生を選択するかという大きな決断が必要になります。リスクもあることを理解した上で疼痛なく歩行能力を維持する人生を選択するか、膝痛や歩行能力の低下は受容してリスクを回避する人生を選択するか。もし手術を選択しないとして、将来歩行出来なくなった時に自宅で生活できるのかどうかなども。

 私が将来変形性膝関節症が進行して歩行が困難になりそうであれば、人工関節を選択すると思います。なるべく自立した生活を維持したいと思うので。

 膝に限らず、運動機能をどこまで維持していくか。もちろん老衰していけば運動機能は自然に低下していきます。全てを受け入れて天命に委ねるという選択もよいと思いますが、後悔しないようにはしていただきたいと思います。

2023年7月 1日 (土)

骨粗鬆症の治療も長くなってきました。

 骨粗鬆症の薬は私が医師になった頃はダイドロネルというビスフォスフォネートの最初の薬くらいしかありませんでした。他はカルシウムやビタミンDKなどを使用していました。その後ビスフォスフォネートも数世代新しい薬が開発され、SERMという種類や副甲状腺ホルモン系の薬、より作用の強い注射薬などが登場してきました。

 当院で骨粗鬆症の治療を行っている方でも、もう10年以上治療している方も少なくありません。効果判定を行うには腰椎と大腿のDEXAが標準であり、手首や踵での骨密度測定では効果判定は基本できないので当院では早くからDEXAを導入してみました。DEXAで継続評価していると、臨床試験ほどどんどん骨密度が上昇することは少ないですが、維持できているか緩やかに上昇している方が多いです。自然経過では年齢とともに平均値は低下していくので、維持しているだけでも同じ年の方の平均と比べると相対的には良くなっていきます。何故臨床試験ほどには上がらないかと言うと、ひとつには臨床試験程に強力な治療は実際には難しいことがあります。骨粗鬆症になる年齢の方々は内科系の薬等をたくさん飲んでいることも多く、どうしても骨粗鬆症治療の優先順位は低くなりがちです。ポリファーマシーの観点などから、他の薬との兼ね合いで調整することが少なくありません。また日本人はどうもカルシウムやビタミンDなどへの耐性が弱いのか、血中や尿中のカルシウム濃度が上がりすぎたり腎機能障害を生じることが意外と多いため、臨床試験より少なめに処方することが多いからもあるかと思います。逆に臨床試験ではカルシウムとビタミンDを充分量処方することが多いのですが、それで副作用などが多発しなかったのかやや疑問に思います。大腿骨の骨密度などは、歩行量を中心とした活動量による面があると思います。どれだけ骨粗鬆症の治療をしていてもほとんど歩いていない方の骨密度は低下していく傾向にあります。

 骨粗鬆症の治療目的は高齢になってからの骨折を減らすことです。転倒などがあるため骨折をなくすことはできませんが、骨格が維持できれば活動性を維持できる可能性が高まるためQOLを維持するには重要な要素かと思います。

 骨は中年期以降は自然経過としては薄くなっていくので、どこから治療介入しどこで終了するかは悩ましいところです。5060歳代で骨密度が高度に低下していたり小さな骨折を繰り返しているような場合は早期に治療介入した方がよいと思います。脊椎の圧迫骨折の最初の1回目を防ごうという目標もあり、この場合最初に強い薬を使う必要があるかもしれません。年齢的には80歳代後半、90歳頃になると、活動レベルにもよりますがポリファーマシーの問題もあり治療は軽くしたり終了していってもよいのかなと思う場合も少なくありません。その間に、どの時期にどの薬を使用するかは医師毎の方針が異なります。基幹病院の専門医の先生の講演会では、何歳くらいまで薬を投与するか聞いてみることもありますが、あまり明確な答えが返ってくることはありません。基本生涯続けるべきという方が多いかもしれませんが、どこまで続けるべきかは難しいところです。現在のエビデンスというのは早期介入には熱心ですが、人生の終焉に向けての対応についてが欠落していることが多く、そこは転倒傾向や体力、活動量などを含め相談が必要かと思います。

 骨粗鬆症の薬は不安のある方も多く、ビスフォスフォネート等の骨吸収抑制系の薬は歯医者さんが大嫌いなので、処方していると歯科で処置してもらえないという事態になることもあります。

 骨粗鬆症の治療は高血圧や脂質異常症等よりは短いかもしれませんが基本長期にわたるので、医療費をどこまで使うかという金銭的な面も含め、ご本人の希望等によりそれぞれのレシピで取り組んでいく必要があると思います。

2023年5月27日 (土)

ダイエットで骨折

 糖尿病等の生活習慣病の方は内科の先生などにダイエットのため運動を勧められると思います。それは非常によいことなのですが、整形外科の診療所にはダイエットのために運動を始めたところ骨折した、という方が時々来院されます。

 ダイエットのためにジョギングをしたら脛骨骨挫傷、筋トレしたら腰椎圧迫骨折、エアロビしたら肋骨骨折、踵落とし体操をしたら踵骨骨挫傷などなど。

 特に閉経後の女性がずっと運動していなかった状態から運動を始める前には骨粗鬆症がないかどうかを確認した方がよいのではないかと思います。ひとつ注意が必要なのは、生活習慣病の方は変形性腰椎症や脊椎の骨化、変形性関節症等を生じていることが多く、骨密度を測定しても低くない場合が少なくないことです。生活習慣病等の場合、骨密度が低くなくても骨質が低下しており骨折しやすくなっていることもあります。なので骨密度を測定して正常範囲であっても運動して骨折する方もいます。そういう場合、脆弱性骨折と言って骨密度が高値でも骨粗鬆症と診断されます。整形外科医であれば、X-Pで脊椎や四肢の骨を見れば骨粗鬆症かどうかはある程度判断できます。そうすると骨密度が高値でも骨粗鬆症の治療を開始する場合もあります。

 ダイエット前に全員骨粗鬆症かどうか調べるのかと言われると現実的ではないものと思います。そもそも、運動で痩せようというのは無理があるのではないかと思います。運動して消費カロリーを計算してがっかりした方は少なくないと思いますが、素人の運動での消費カロリーなど間食したり晩酌してしまったら摂取カロリーに勝つことは容易ではありません。現代人に節制を求めてもほとんど無理なのでしょうが。

 まずは食事や飲み物、間食などを見直し、運動としては衝撃の加わりにくいものから始めるとよいのではないかと思います。ジョギングよりウォーキング、エアロビクスよりヨガなど。踵落としの前に軽く足踏みなど。自転車漕ぎや水中歩行などもよいかもしれません。体を運動に慣らす段階を経てから強度を上げていくことをお勧めします。

 毎日圧迫骨折や脆弱性骨折の方々にお会いしていると、これから高齢化がさらに進んだ社会が本当に恐ろしい気がします。特に女性では半数以上の方が70代で骨粗鬆症になるのに、検診する機会はありません。多くの場合骨折して初めて骨粗鬆症と診断されます。検診はメジャー科のものなのでこれからも毎年コレステロールなど測定し続けるのでしょうが、時代に合っていないなと思います。

 孫を抱っこしようとしたら腰痛、縄跳びしたら腰痛、衣替えしようとしたら腰痛。40~50代の方が親を介護しようとしたら腰痛。その腰痛は圧迫骨折かもしれませんよ。脅かすつもりもありませんが。

2023年4月16日 (日)

全ての痛み止めが飲めないという場合

 整形外科をしていると、体のどこかが痛い人と毎日数十人お会いします。骨折していたりぎっくり腰だったり膝痛だったり痛風だったりその他様々な痛い方にお会いします。なのでどうしても毎日痛み止めの薬を処方しています。

 痛み止めは体によくないということはほぼ全ての方のコンセンサスになっているように思います。整形外科医としても痛み止めはなるべく使いたくないとは思いますが、痛みをどうにかしてほしくて整形外科へ来院される方が少なくないと思いますので必要最小限でなるべく副作用の少ない薬を使いたいと思っています。お薬以外の方法、特にリハビリテーションなどで症状が治まっていく方も多いので、内服は避けたいという場合は薬以外の方法をまず行ってみて経過により相談という場合も少なくありません。

 痛み止めが飲めないという方は少なくありません。一つの系統で飲めないのであれば、他の系統の痛み止めを使えばよいかと思いますが、中には全ての痛み止めが飲めないという方もいらっしゃいます。副作用情報は医師としては最も注意が必要な事柄のひとつです。これは理解しておいていただきたいのですが、原則として一度副作用の訴えのあった薬は、それを知った医師は一生その方には処方しないということです。あくまで原則ですが。昔子供の頃、喘息発作時にテオドールを飲んだらしばらくしてボコボコと体中にじんま疹が出たことがありました。もう40年くらい前のことかと思いますが、私は今後も一生テオドールは飲まないでしょう。副作用の出たことのある薬を再度処方するというのはかなりハードルの高いものです。

 痛み止めというとまずは消炎鎮痛剤を思い浮かべるかと思います。私が医師になった数十年前は痛み止めというと消炎鎮痛剤以外は少なかったので、痛み止めが飲めないイコール消炎鎮痛剤が飲めないという理解でほぼよかったものです。しかし最近は炎症止め以外にも様々な系統の痛み止めがあるので、全ての系統で副作用が現れる確率は統計学的にはかなり低いはずです。なので全ての痛み止めが飲めないという場合は副作用以外の要因について考える必要がありそうです。 

 副作用以外で鎮痛剤を飲めない原因としては、ひとつは効果を実感しないから飲まない(希望しない)という場合です。全ての系統で効果が出ないということは、通常の内服薬では無理な病態(手術適応状態、内服では十分に除痛できない状態、鎮痛剤が効果的ではない病気など)を考慮する必要があるかもしれません。そういう場合は通常の内服薬以外の方法で対応する必要があります。膝痛で半月板や軟骨が痛んでいれば、痛み止めを飲んでもすぐに痛みが止まるということはありません。リハビリテーション等の運動療法で改善するのであればそれが一番体にはやさしいと思います。内服薬の効果が期待できないレベルで変形していたりする場合、手術を検討した方がよいかもしれません。

 もう一つはストレスや心因性疼痛(最近は痛覚変調性疼痛と呼ばれています)等に対しても、鎮痛剤系統は効果が出ないかもしれません。最近は元々抗うつ剤だった薬が神経痛系統の鎮痛剤として保険適応されており、そういう系統の薬で効果のある方もいますが、逆に使用を敬遠される方も少なくありません。最も望ましいのはその方の精神的負担の原因となっている事柄が解決することだと思いますが、それが難しければ様々なつながりで負担が軽くなるとよいなと思います。カウンセリングや認知行動療法などもよいかもしれませんが敷居が高いかもしれません。経過によっては精神科受診等も検討された方がよいかもしれません。身体の疼痛に対しては運動療法やリハビリテーションは有効な場合が多いです。マッサージや鍼なども心の平穏も含めて有効かもしれません。

 高齢者の方では、薬の管理ができないと、処方されても困るということがあり薬は嫌、効かない、という方もいます。副作用で飲めなかったというようなことを理由にする場合もよくあります。もっと若い時期からずっと毎日飲んでいる生活習慣病の薬は既に習慣化されていて内服できるけれど、歳を取ってから内服を始める骨粗鬆症の薬や鎮痛剤系統は忘れてしまい飲めないということもあります。その後数年、510年くらい経ってから早期認知症と診断されることも少なくありません。認知症は早期認知症と診断されるよりずっと前から漠然とした不安感を抱いている方が少なくありません。全ての痛み止めが飲めないとか、漠然とした不安感は認知症の早期と言われるよりずっと以前の最も初めの症状発現なのかなと思うことも時々あります。

 ちなみに、全ての痛み止めが飲めないという方が骨折して手や足がグラグラになって来院された時どうするか。副木やギプスで固定すれば痛みは緩和されますが、それでもかなり痛いかもしれません。「痛み止めは副作用で飲めないようですがどうしますか?」とお聞きすることになります。医学的には一度副作用の訴えがあった薬を再処方するということは原則できないものです。

そういう場合、ほとんどの方が「痛み止め飲みます。」と言われます。そういう場合、経験上アナフィラキシーや薬疹を生じた薬以外で鎮痛剤を処方するとほとんどの方が内服可能です。

 昨今、コロナワクチン接種後の発熱等でアセトアミノフェンを使用しましたが、全ての痛み止めが飲めないとおっしゃっていた方でも、ワクチン接種後にアセトアミノフェンが飲めないという方はほとんどいませんでした。痛み止めとしては飲めなくても解熱剤としては飲めるということがかなり多いということです。最近は医療用の痛み止めがOTC化されてドラッグストアで販売されていますが、処方した薬が飲めなかった方でも、OTCの薬なら飲める方が多いです。そもそも元々副作用が多いとして慎重投与している薬がOTC化された途端に「胃に優しくてよく効く。」と宣伝されて安易に内服できることには疑問もありますが。整形外科から処方すると飲めない薬も、歯科から処方されると飲めている方も少なくありません。診療所レベルで全滅している方でも、病院から処方された場合複数の鎮痛剤を組み合わせて全て飲めているというようなことも稀ではありません。

 鎮痛剤が全て飲めないという場合、それが副作用によるものなのか、希望しないという意味なのか、心理的要因がないかどうか、管理の問題ではないかどうか、手術など検討すべき時期なのではないかどうか。などなどいろいろな配慮が必要なのだと思います。

 

2023年3月27日 (月)

膝はすり減ったのみでは痛くない。

 よく膝がすり減って痛いと言います。整形外科医がよく言うと思いますが、これは説明として分かりやすいから言いやすいという面が大きい言葉で、実際の膝痛の原因とはやや違うかもしれません。

 実際両膝のレントゲンを撮ってみると、痛くない膝関節の方が余計にすり減っているということもよくあります。ほとんど関節の間がない程すり減っている膝でも痛くないということも少なくありません。

 実際何故膝が痛くなるのか。多くの場合、どこか関節内で損傷を生じているか、膝関節内に病変のあることが多いように思います。膝関節内で損傷を生じる組織としては半月板、関節軟骨、靱帯軟骨の土台としての骨が主です。

 一番最初に痛む組織としては半月板が多い印象です。半月板は損傷するとなかなか修復しない組織です。一度痛くなるとすぐに痛みを取ることは難しいものです。若い方がスポーツで損傷したような場合は早期に内視鏡手術が行われますが、年齢的にすり切れたような場合、すぐに手術になるということはあまりありません。最近積極的に内側半月板後節の損傷に対しては手術をする報告もありますが、中高年の方の場合下肢の角度を治す矯正骨切り術を併用される場合もあり大がかりな手術となるかもしれません。半月板損傷等で半月板が関節の間から外れて(逸脱して)しまうこともあり、この場合も修復する手術をする場合もありますが多くは年齢的に骨切り術や人工関節となります。半月板損傷に伴い半月板ガングリオンを生じていることもあります。この場合はガングリオン穿刺を行うと症状は改善しますが、再度溜まってしまうこともあります。

 軟骨損傷も時にあり、半月板損傷と同時に生じることもあります。軟骨はレントゲンには写らないため、診断にはMRI等が必要です。超音波検査で発見できることもあります。この場合、できればしばらく患肢に体重をあまりかけないようにした方がよいので、松葉杖歩行なども検討を要しますが、多くの方が杖は嫌と言います。なるべく軟骨が関節面から欠落したりしないよう無理せずリハビリテーションや関節注射などで経過観察をすると早期であれば治まってくることも少なくありません。症状が強く改善傾向のない場合は手術的治療が必要です。軟骨が完全に無くなっているような方でも、痛みもなく歩けている場合もありますが、骨同士の咬み合わせが良好になればよいのかもしれません。そこまで到達するのに痛みを我慢していた時期が多々あるのだろうと思いますが。特に農家の方など軟骨がないような膝でも農作業をされるので、すごいなと思います。

 靱帯損傷では、特に前十字靱帯損傷を生じると受傷時の痛みを乗り切るとあまり痛くはありません。膝が緩い、ズレるなどの感覚が続く場合もあります。そのまま時間が経過すると関節は余計にすり減ることがあります。すでにすり減っている膝では靱帯再建術にはならず、症状を緩和する治療を行うか、人工関節など積極的な治療かを検討します。

 骨挫傷と言ってレントゲンでは問題なくても、MRIでは骨の中が痛んでいるということもあります。この場合も、そのまま歩き続けると骨が潰れて変形してしまうこともあるので早期では松葉杖歩行など荷重をしないか減らすことが必要です。変形無く骨が固まれば症状は取れることが多いです。間隔を開けて再度レントゲン検査をすると関節面が陥凹していたりする場合もありますが、変形が軽度であれば疼痛は落ち着くことが多いです。

 その他にも関節炎や鵞足炎など炎症性疾患もあります。 

 レントゲンですり減っていても、結局どこが原因なのか。複数の原因が重複していることもありそれぞれよく検討して対応する必要があります。

 

より以前の記事一覧